営業の引き継ぎとは、担当者が変わるときに、顧客との関係・案件の経緯・交わした約束を後任へ移し、顧客から見た対応の質を落とさないこと。退職や異動のほか、担当エリアの組み替え、インサイドセールスからフィールドセールスへの受け渡しも含まれる。

引き継ぎの成否は、引き継ぎ期間の数週間ではなく、それまでの日頃の記録でほぼ決まる。記録が残っていれば、引き継ぎは「確認」で済む。残っていなければ、前任者の記憶を短期間で書き出す作業になり、必ず抜けが出る。

この記事では、引き継ぎが起きる場面ごとの違い、引き継ぐ項目のチェックリスト、3段階の進め方、顧客への挨拶の型、そして引き継ぎそのものを軽くする記録の仕組みまでを整理する。

営業の引き継ぎとは

営業の引き継ぎで移すものは、資料やファイルだけではない。大きく4つある。

区分中身抜けたときに起きること
顧客企業の基本情報、関係者と役割、取引の履歴誰に連絡すべきか分からない
案件進行中の商談のフェーズ・金額・次の予定商談が止まる、競合に先を越される
約束見積の期限、納期、値引きや特別条件、宿題期日を過ぎて信頼を失う
関係性キーパーソンの考え方、過去のトラブル、好む連絡手段同じ失敗を繰り返す、地雷を踏む

このうち顧客と案件は、SFAや顧客管理の仕組みがあれば記録に残りやすい。抜けやすいのは約束と関係性の2つ。担当者の頭の中やメールの文中にしかないことが多く、後任が顧客の前で困るのもこの2つになる。

業務の引き継ぎとの違い

一般的な業務の引き継ぎは、手順書があれば後任が同じ作業を再現できる。営業の引き継ぎは、相手が社外の人間である点が違う。

顧客は担当者が変わることを選んでいない。後任がどれだけ準備しても、顧客から見れば「関係を一からやり直す」負担がかかる。だからこそ、社内の手続きよりも顧客の負担をどこまで小さくできるかを基準に組み立てる。

引き継ぎが起きる5つの場面

営業の引き継ぎは、場面によって前任者の協力の度合いと、使える時間が大きく違う。

場面前任者の協力使える時間主なリスク
退職得られるが、期間が限られる短い(有給休暇の消化で実働が減る)関係性の情報が丸ごと失われる
異動得られる。異動後も社内で質問できる中程度異動先の業務に追われ、引き継ぎが後回しになる
担当替え(エリア・顧客の再配分)得られる計画的に取れる一度に多くの顧客が動き、挨拶が雑になる
インサイドセールスからフィールドセールスへ部門をまたぐ日常的に発生顧客が同じ質問を二度される
受注後の導入・サポート部門へ部門をまたぐ日常的に発生商談中の約束が伝わらない

退職・異動・担当替えは「人が変わる」引き継ぎ。インサイドセールスからフィールドセールスへ、営業から導入・サポート部門へ、は「工程が変わる」引き継ぎ。

工程が変わる引き継ぎは毎日のように起きるため、1回ごとの丁寧さよりも、決まった項目で、決まったタイミングで渡す仕組みが重要になる。分業の考え方は、フィールドセールスと営業の分業化 と トスアップとインサイドセールス連携 で扱っている。

前任者がすでにいない場合

急な退職などで、引き継ぎの時間がほとんど取れないこともある。この場合は、社内に残っている記録を顧客ごとに集めることから始める。

  1. SFAや顧客管理の記録、メールの送受信履歴を顧客ごとにまとめる
  2. 見積書・契約書・請求の履歴から、取引の条件と金額を確認する
  3. 社内で前任者と関わった人(上司・同僚・サポート担当)に聞き取る
  4. それでも分からない点は、顧客に正直に確認する

顧客に確認するときは、「前任から十分に引き継げていない部分があるため、確認させてください」と伝えればよい。知ったふりをして話を進めるほうが、後で信頼を損なう。

引き継ぎで起きること

引き継ぎがうまくいかないと、次のような形で影響が出る。

起きること具体例影響
二度聞き顧客に以前話した課題や条件を再び尋ねる「話が通じていない」という不信
約束の失念前任が約束した見積の期限を過ぎる信頼の低下、競合への切り替え
商談の停滞次の予定が分からず、連絡が途切れる失注、受注時期の後ろ倒し
条件の食い違い前任が口頭で合意した値引きを後任が知らない再交渉、関係の悪化
窓口の混乱顧客が前任に連絡し続ける対応の遅れ、情報の分散

どれも、後任の能力の問題ではない。情報が後任の手元に届いていないことから起きる。

社内への影響

影響は顧客との関係だけにとどまらない。後任は過去の経緯を調べる時間に追われ、本来の営業活動に使える時間が減る。マネージャーは案件の状況を把握できず、売上の見込みが読めなくなる。引き継ぎの失敗は、後任・マネージャー・顧客の3者の時間を同時に奪う。

引き継ぎが失敗する原因

引き継ぎがうまくいかない原因は、大きく5つに分けられる。

1. 情報が担当者の頭の中にある

最も根本的な原因。顧客との経緯や関係性が記録に残っておらず、前任者の記憶にしかない状態。引き継ぎの期間に思い出して書き出そうとしても、本人が重要だと思っていないことは書かれない。

2. 記録の粒度が担当者ごとにばらばら

記録はあっても、ある担当者は詳しく、別の担当者は一行だけ、という状態。後任は記録の量で判断を誤る。記録が少ない顧客ほど、実は経緯が複雑だったということも起こる。

3. 記録の置き場所が分かれている

顧客情報はExcel、商談の経緯はメール、見積は共有フォルダ、次回の予定は個人の手帳。後任は情報を探すだけで時間がかかり、どこかに残っている約束を見落とす。

4. 引き継ぎの期間と手順が決まっていない

いつまでに、何を、誰が確認するかが決まっていないと、引き継ぎは前任者の裁量に任される。退職を控えた前任者は残務に追われ、引き継ぎは最後の数日に詰め込まれる。

5. 顧客への説明が足りない

社内では引き継ぎが完了していても、顧客が担当変更を知らない、または後任の連絡先を知らない。顧客は前任に連絡し続け、対応が遅れる。

5つのうち、1〜3は記録の問題、4〜5は手順の問題。手順は引き継ぎの時点で整えられるが、記録の問題は日頃の運用でしか解決できない。属人化の原因と解消の手順は、営業の属人化を解消する4つのステップ で詳しく扱っている。

引き継ぐ項目チェックリスト

引き継ぎ書は、顧客ごとに同じ項目で作る。項目がそろっていれば、後任は記録の抜けにすぐ気づける。

顧客単位で引き継ぐ項目

項目内容確認
基本情報社名、所在地、業種、規模、取引開始時期記録とずれていないか
関係者担当者・決裁者・影響者の氏名と役割、連絡先異動や退職で変わっていないか
取引の履歴過去の受注・失注、取引額、主な商材直近1年分がそろっているか
契約と条件契約期間、更新時期、価格や支払いの条件特別な条件の根拠が残っているか
連絡の好み連絡手段、連絡してよい時間帯、頻度前任に確認したか

案件単位で引き継ぐ項目

項目内容確認
フェーズ今どの段階にあるか判断の根拠が記録されているか
金額と時期見込み金額、受注予定時期、確度最新の見込みか
次の予定次回の連絡日・訪問日、内容期日が過ぎていないか
顧客の課題何を解決したいか、検討の背景顧客の言葉で記録されているか
競合と比較比較されている製品・会社、評価の状況最新の状況か
決裁の流れ誰が、いつ、どの会議で決めるか次の関門が分かるか

約束と注意点

項目内容
約束した期限見積・資料・回答の提出期限
口頭の合意値引き、納期、サービスの範囲など、書面にない合意
宿題顧客から頼まれ、まだ対応していないこと
過去のトラブルクレームや納期遅れ、その後の対応
避けるべきこと顧客が嫌う話題や進め方

約束と注意点は、前任者に口頭で聞き取る時間を必ず取る。記録に残っていないことが最も多い項目だから。

引き継ぎの進め方:3つの段階

引き継ぎは、準備・実行・定着の3段階で進める。

準備:対象を洗い出し、優先順位を付ける

  1. 担当顧客と進行中の案件を一覧にする:SFAなどから担当分を書き出し、漏れがないか前任者と確認する
  2. 顧客を重要度で分ける:取引額、進行中の案件の有無、関係の深さで3段階程度に分ける
  3. 挨拶の方法を決める:重要度の高い顧客は同行訪問かオンラインで、それ以外はメールで、と決める
  4. 引き継ぎ書を作る:前述の項目で顧客ごとに作り、約束と注意点は前任者から聞き取る

期間は、同行が必要な顧客の数から逆算する。たとえば同行が必要な顧客が20社あり、1日に回れるのが2〜3社なら、それだけで7〜10日の訪問日が要る。ここから逆算して、引き継ぎの開始日を決める。

実行:顧客に伝え、関係をつなぐ

  1. 前任から担当変更を伝える:最初の連絡は前任から。理由は簡潔でよい
  2. 前任と後任で挨拶する:重要な顧客には同行し、前任が後任を紹介する。後任は過去の経緯を把握していることを示す
  3. 進行中の約束を後任が引き取る:期限のある約束は、挨拶の場で後任が引き取ることを明言する

定着:後任の最初の1か月を見守る

  1. 後任が最初の連絡を自分から入れる:挨拶の後、1〜2週間以内に後任から具体的な用件で連絡する
  2. マネージャーが顧客の反応を確認する:担当変更後の最初の1か月は、重要な顧客の様子をマネージャーも確認する
  3. 引き継ぎの抜けを記録に戻す:後任が気づいた抜けは、記録に書き足す。次の引き継ぎで同じ抜けを防ぐ

引き継ぎの完了は「挨拶が終わった日」ではなく、後任が顧客と最初の約束を果たした日と考えたい。

引き継ぎ完了を判断する目安

マネージャーは、次の項目がそろった時点で引き継ぎ完了と判断するとよい。

  • すべての担当顧客に、担当変更の連絡が届いている
  • 重要な顧客には、後任が直接挨拶を済ませている
  • 期限のある約束が、すべて後任の予定に入っている
  • 進行中の案件の次回アクションが、後任の名前で更新されている
  • 後任から見て分からない点が、前任者への確認で解消されている

担当変更をきっかけに関係を深める

担当変更は、リスクであると同時に機会にもなる。新しい担当者は、前任者が慣れで見落としていた顧客の変化に気づきやすい。停滞していた案件を改めて確認する、前任者のころには話題にならなかった課題を聞く、といった動きができる。

ただし、それができるのは過去の経緯を押さえたうえでの話。経緯を知らないまま新しい提案をすると、顧客には一から説明し直す負担だけが残る。

引き継ぎのスケジュールの組み方

引き継ぎの期間は、決まった日数で考えるより、やるべき作業の量から逆算するほうが確実。量を決めるのは次の3つ。

  • 担当している顧客と進行中の案件の数
  • そのうち、同行訪問やオンラインでの挨拶が必要な顧客の数
  • 前任者が引き継ぎに使える実働日数(退職なら有給休暇の消化を差し引く)

4週間で組む場合の例

前任者の最終日まで4週間ある場合の組み方の例。顧客数が多い、または進行中の案件が多い場合は、前倒しで始める。

時期前任後任マネージャー
1週目担当顧客と案件の一覧化、記録の更新一覧と記録を読み込み、質問を書き出す顧客の重要度分け、挨拶の方法を決める
2週目引き継ぎ書の作成、約束と注意点の聞き取りに対応前任への質問、引き継ぎ書の確認重要顧客への挨拶の日程調整
3週目重要顧客への同行、それ以外の顧客へのメール同行での挨拶、進行中の約束の引き取り重要顧客の挨拶に同席
4週目残りの顧客への連絡、記録の最終更新後任からの最初の連絡を開始引き継ぎ漏れの確認
担当変更後1か月(異動の場合)後任からの質問に対応最初の約束を果たす、気づいた抜けを記録へ重要顧客の反応を確認

退職の場合は、最終出社日より前に有給休暇の消化が入ることが多い。実際に出社して引き継ぎに使える日から逆算しないと、3週目の同行が組めなくなる。

一度に多くの顧客が動くとき

組織変更やエリアの組み替えで、数十社以上の顧客が一度に動くこともある。この場合は、全顧客に同じ丁寧さで対応しようとすると時間が足りない。重要度の高い顧客から順に挨拶し、それ以外は前任と後任の連名のメールで知らせる、と段階を分ける。

顧客への挨拶と連絡の型

顧客への伝え方で、引き継ぎの印象は大きく変わる。

同行訪問の進め方

  • 冒頭で前任から担当変更を伝え、これまでの取引へのお礼を述べる
  • 前任が後任を紹介する。後任の経歴よりも、過去の経緯を把握していることを伝える
  • 進行中の案件と約束を、その場で確認し合う
  • 後任から今後の連絡方法と、次の予定を伝える

前任がいる場で後任が経緯を話せると、顧客は「話が通じる」と安心できる。オンラインで挨拶する場合も同じで、画面越しでも前任が同席して紹介することに意味がある。

前任から送るメールの例

件名:担当者変更のご挨拶

平素より大変お世話になっております。

私事で恐縮ですが、このたび〇月〇日付で〇〇部へ異動することとなりました。在任中は格別のご厚情を賜り、心より御礼申し上げます。

今後は、〇〇が貴社を担当いたします。これまでの経緯は〇〇に引き継いでおり、ご依頼いただいている〇〇の件も、〇月〇日までに〇〇よりご連絡いたします。

後日、〇〇より改めてご挨拶のご連絡を差し上げます。引き続きよろしくお願いいたします。

後任から送るメールの例

件名:新任担当のご挨拶

このたび〇〇の後任として貴社を担当することになりました、〇〇と申します。

〇〇より、これまでのお取引の経緯と、現在ご検討いただいている〇〇の件を引き継いでおります。お約束していた〇〇は、予定どおり〇月〇日までにお送りいたします。

改めてご挨拶に伺いたく、〇月〇日〜〇日の間でご都合のよい日時をお知らせいただけますでしょうか。

今後ともよろしくお願いいたします。

どちらのメールも、進行中の約束を具体的に書くのが要点。顧客の不安は「約束が守られるか」にある。

部門をまたぐ引き継ぎ:インサイドセールスからフィールドセールスへ

インサイドセールスからフィールドセールスへの受け渡しは、人の異動と違って毎日のように起きる。1件ずつ丁寧に引き継ぐより、渡す基準と渡す項目を決めておくことが重要になる。

渡す基準を合意する

どの状態になったらフィールドセールスへ渡すのかを、両部門で決める。基準があいまいだと、インサイドセールスは早く渡しすぎ、フィールドセールスは「まだ商談にならない」と差し戻す、という行き違いが続く。

渡す項目をそろえる

項目内容
関心を持ったきっかけ問い合わせ・資料請求・セミナー参加など、接点の経緯
課題顧客が自分の言葉で話した困りごと
検討の背景と時期なぜ今検討しているのか、いつまでに決めたいのか
予算と決裁予算の有無、決裁者と決裁の流れ
比較対象他に検討している製品・方法
次の予定商談の日時、参加者、顧客が期待していること

IRISデータラボ株式会社 の事例では、導入前はインサイドセールスとフィールドセールスで聞くべき項目を分けずに、すべてメモ欄に詰め込んでいたため、情報の質がそろわず分析にも手間がかかっていた。GoCoo! SFAの導入にあたっては、インサイドセールスとフィールドセールスがそれぞれ必須の質問を埋め、課題を特定できたものだけを次のフェーズに進める、という仕組みを構想している。渡す基準を、情報がそろっているかどうかで判断する考え方。

受注後の導入・サポート部門への引き継ぎ

受注後に導入支援やカスタマーサポートへ渡すときも、同じ考え方を使う。とくに抜けやすいのは、商談中に顧客と交わした約束と、顧客が導入で期待している成果。これが伝わらないと、導入支援の担当者は顧客の期待とずれた進め方をしてしまう。

営業とサポートで別々のシステムを使っていると、契約後の顧客の状況を確かめるために別の画面を開く必要があり、情報が一続きで追えなくなる。受注前と受注後の記録を同じ場所でつなげておくと、部門をまたぐ引き継ぎが軽くなる。

立場ごとの役割

引き継ぎは前任者だけの仕事ではない。4者それぞれに役割がある。

立場役割よくある失敗
前任記録の整理、約束と関係性の聞き取りへの協力、顧客への最初の連絡残務に追われ、引き継ぎが最後の数日に詰まる
後任記録を読み込み、分からない点を前任に確認、最初の約束を守る記録を読まずに顧客の前に出る
マネージャー期間と手順の設定、優先順位の判断、担当変更後の顧客の確認前任と後任に任せきりにする
顧客新しい担当者との関係づくり担当変更を知らされず、前任に連絡し続ける

とくにマネージャーの役割が大きい。引き継ぎの期間を確保し、重要な顧客には自分も顔を出す。引き継ぎを個人の作業ではなく、組織の業務として扱うことが、顧客の離反を防ぐ。

後任が最初の2週間でやること

後任にとって、最初の2週間は顧客の信頼を得られるかどうかが決まる期間。次の順に進める。

  1. 担当顧客の記録をすべて読み、顧客ごとに分からない点を書き出す
  2. 前任者に質問し、とくに約束と注意点を確認する
  3. 期限のある約束を一覧にし、期日の近い順に予定へ入れる
  4. 挨拶で、過去の経緯を把握していることを具体的に示す
  5. 挨拶の後、具体的な用件で自分から最初の連絡を入れる

最初の約束を期日どおりに果たすことが、何よりも顧客の安心につながる。

チームで顧客を担当する考え方は、チーム営業と個人営業の違い が参考になる。

平時から備える:引き継ぎに強い営業組織

引き継ぎは、いつ起きるか分からない。急な退職や体調不良による長期の不在もある。引き継ぎが発生してから慌てないために、平時から次の4つを整えておく。

備え内容効果
副担当を置く重要な顧客には、主担当のほかに副担当を決めておく主担当が不在でも、顧客が話の通じる相手を持てる
顧客との接点を複数にする上司やサポート担当も、顧客と定期的に接点を持つ担当者1人に関係が集中しない
記録を定期的に点検する月に1回など、マネージャーが案件の次回アクションと約束の記録を確認する記録の抜けが小さいうちに見つかる
必須項目を決めておくフェーズ・次回アクション・顧客の課題など、空欄にしない項目を決める担当者によって記録の粒度がばらつかない

とくに副担当は、引き継ぎの負担を大きく下げる。副担当がすでに顧客と面識を持っていれば、担当変更は「新しい人の紹介」ではなく「役割の入れ替え」で済む。

引き継ぎに強い組織とは、引き継ぎが上手な組織ではなく、引き継ぎで失うものが少ない組織。そのための備えは、日頃の記録と、顧客との接点の持ち方に集約される。

引き継ぎ書を作るより、日頃の記録で引き継ぐ

ここまでの手順を丁寧に進めても、引き継ぎのたびに引き継ぎ書をゼロから作るのは負担が大きい。前任者の記憶に頼る以上、抜けもなくならない。

根本的な解決は、引き継ぎ書に書く項目を、日頃から同じ形で記録しておくこと。そうすれば引き継ぎ書は、記録から出力するだけで済む。

日頃の記録で押さえる3点

記録押さえること引き継ぎでの効き方
案件のフェーズと次回アクション次に何を、いつ行うか後任が初日から次の一手を打てる
活動の履歴誰と、いつ、何を話したか二度聞きがなくなる
顧客の課題と約束顧客の言葉での課題、期限のある約束約束の失念がなくなる

なかでも次回アクションの記録は効果が大きい。案件ごとに「次に何をするか」と「いつまでにするか」が入っていれば、担当者が変わっても案件は止まらない。

記録の項目をそろえる

記録の粒度がばらばらでは、引き継ぎに使えない。次の2つをそろえる。

  • 必須項目を決める:フェーズ・金額・次回アクション日・次回アクションの内容など、空欄にしない項目を決める
  • 選択肢で入力させる:フェーズや失注理由は自由記述ではなく、決まった選択肢から選ぶ

項目がそろうと、引き継ぎだけでなく、案件の比較や分析にも使えるようになる。SFAで案件を管理する手順は、SFAで案件管理を行う方法 で扱っている。

導入事例:記録が残ると引き継ぎが変わる

GoCoo! SFAを導入した企業でも、引き継ぎと情報共有の変化が語られている。

担当者がいなくても顧客と話せる

近畿壁材工業株式会社 では、営業担当者がそれぞれ顧客を管理しており、担当者が不在だと顧客対応ができず、引き継ぎや対応が滞ることが多かった。営業部の旦様は、導入前の状況を次のように振り返っている。

弊社のメンバーは個人商店の集まりの様な感じで個別対応している部分がかなり大きくて、でもお客様側は誰でも知ってくれている体でお問い合わせしてくる。担当の者がいないからわかりません、というケースがあまりにも多かったです。

導入後は、商談がどのような経緯で始まり、今どの段階にあるのかが見えるようになり、問い合わせに担当者以外でも対応できるようになってきているという。

記憶に頼る営業から、記録で引き継げる営業へ

ヤクルト商事株式会社 では、紙と記憶に頼る営業からの脱却を目的にSFAを導入した。営業報告を蓄積し始めてから半年で115件以上の商談結果を網羅し、次回アクションが明確になったことで対応漏れが減り、引き継ぎや情報共有もスムーズになったという。

2社に共通するのは、引き継ぎのための特別な作業を増やしたのではなく、日頃の記録の置き場所を1つにしたこと。その結果として、引き継ぎが軽くなっている。

AIで引き継ぎの負担を減らす

記録が1か所に集まっていれば、AIを使って引き継ぎの作業をさらに減らせる。

作業AIに任せられること人が確認すること
経緯の把握顧客ごとの活動履歴を要約し、主な出来事を時系列に並べる要約に抜けや誤りがないか
引き継ぎ書の作成記録から、前述の項目に沿った引き継ぎ書の下書きを作る約束と注意点を前任者に確認する
期限の洗い出しメールや記録から、期限のある約束を拾い出す実際の期日と相手を確認する
挨拶の準備顧客ごとの挨拶メールの下書きを作る文面と送る順番を決める

ただし、AIが要約できるのは記録に残っているものだけ。関係性や口頭の合意など、記録にない情報はAIにも拾えない。AIは引き継ぎの「整理」を速くするが、前任者への聞き取りは残る。

もう1つ注意したいのが、閲覧の権限。AIに記録を要約させるときは、後任が本来見てよい範囲の記録だけを材料にする。人事や契約の機微な情報が混じった記録を、そのまま要約に含めないよう、使うデータの範囲を先に決めておく。AIの出力は下書きとして扱い、顧客に送る前に必ず人が読む。

引き継ぎがうまくいったかを測る

引き継ぎは、終わった後に振り返られることが少ない。うまくいったかどうかを測っておくと、次の引き継ぎの手順や記録の項目を直す材料になる。

指標見ること測り方
担当変更後の失注・解約担当変更から3か月以内に失った案件や顧客担当変更の日付と、失注・解約の記録を突き合わせる
期日超過の案件次回アクション日を過ぎたまま更新されていない案件担当変更の前後で件数を比べる
約束の遅れ期限を過ぎた見積・回答・資料顧客からの催促の有無を記録する
後任の立ち上がり後任が独力で商談を進められるまでの期間最初の提案・受注までの日数
引き継ぎ書の補記後任が後から書き足した項目の数と中身補記の内容を、日頃の記録の必須項目と比べる

最後の「引き継ぎ書の補記」は、とくに役に立つ。後任が書き足した項目は、日頃の記録に足りなかった項目そのもの。これを必須項目に加えれば、次の引き継ぎで同じ抜けは起きない。

数値は、担当変更の件数が少ないうちは比較が難しい。最初は数値よりも、後任とマネージャーが「何に困ったか」を短く書き残すだけでも十分に意味がある。

引き継ぎでよくある失敗と対策

失敗原因対策
最後の数日に詰め込む期間と手順が決まっていない同行が必要な顧客数から逆算して開始日を決める
挨拶が雑になる一度に多くの顧客が動く顧客を重要度で分け、挨拶の方法を変える
約束を落とす約束が記録に残っていない約束と注意点は口頭で聞き取る時間を取る
顧客が前任に連絡し続ける担当変更の連絡が届いていない前任と後任の両方から連絡し、連絡先を明示する
後任が記録を読まない記録が多すぎる、または散らばっている引き継ぎ書の項目をそろえ、要点を先に読めるようにする
同じ抜けを繰り返す引き継ぎの反省が記録に戻らない後任が気づいた抜けを記録に書き足す

引き継ぎを組織の学びにする

引き継ぎは、記録の質を点検する機会でもある。後任が「この情報がなくて困った」と感じた項目は、日頃の記録に足りない項目そのもの。引き継ぎのたびに必須項目を見直せば、次の引き継ぎはさらに軽くなる。

情報共有を定着させる方法は、営業で情報共有するメリットと定着させる方法 で扱っている。

まとめ

  • 営業の引き継ぎで移すのは、顧客・案件・約束・関係性の4つ。抜けやすいのは約束と関係性
  • 退職・異動・担当替えは「人が変わる」引き継ぎ、IS→FS・営業→導入支援は「工程が変わる」引き継ぎ。後者は仕組みで渡す
  • 失敗の原因は、記録の問題(頭の中・粒度・置き場所)と手順の問題(期間・顧客への説明)に分かれる
  • 引き継ぎ書は顧客ごとに同じ項目で作る。約束と注意点は前任者から口頭で聞き取る
  • 準備・実行・定着の3段階で進め、期間は同行が必要な顧客数から逆算する
  • 挨拶のメールには、進行中の約束を具体的に書く
  • 根本的な解決は、引き継ぎ書に書く項目を日頃から同じ形で記録しておくこと。とくに次回アクションの記録が効く

GoCoo! SFAなら、顧客・案件・活動の記録を1か所に集め、フェーズや次回アクションを一覧のまま更新できます。担当者が変わっても案件が止まらない記録の項目づくりから、現在の管理方法を伺ったうえでご提案します。

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